トリノ近郊カルマニョーラ産ピーマン
コスティリオーレから丘陵を下りて行ったところにモッタという集落がある。
ポー河の支流ターナロ川が近くに流れている。この川はこれまで秋の雨季の時期になんども洪水を引き起こし、運ばれてきた土砂が堆積層を構成する結果となった。
この土壌が野菜栽培に適し、モッタは野菜類なかでも夏に旬を迎える甘く肉厚のピーマン栽培地として、州都トリノ近郊に在る町、カルマニョーラと共に知られるようになった。
ピエモンテで一度でもあの長く厳しい冬を経験すると、夏の時期、持て余すほど一度に収穫時期をむかえる野菜類や果物類を、なんとか冬に備え保存できないかと考えるようになるのは当然のことである。
ピーマンも焼いて皮をむき、オイル漬けや酢漬けにして長期保存可能にした。
流通が発達し物が豊富に出回るようになった今日においても、家族総出で取り掛かるこの作業は、一時期のように盛んではなくなったにしても面々と続けられている。
彩り豊かなピーマンは暑い時期に実る野菜、いわば季節ものであったのが1990年当初からオランダで温室栽培された品が通年市場に出回るようになってきた。
日本では輸入会社がパプリカという名で販売するようになってきて以来、ピーマンという従来の呼び名から交代する結果となり、定着したといっても過言ではない。
イタリア国内でも初めの頃は大都市、特にミラノ、ボローニャ郊外に大型ショッピングセンターがオープンするようになると、季節もののピーマンは徐々に劣勢にまわるようになり、生産量は減る一方の結果となった。
売れなくなってしまったのに綿々と固執せず現実的な農家はピーマンから園芸に徐々にシフト。
これが成功をおさめ、今ではアルプスを越えたオランダ始めとする諸国に花を売り、オランダからの温室ピーマンがスーパーマーケットに並んでいるという以前の逆状態。
それでもモッタには度重なり受けてきた大水害に屈することなく、葉物・根物類野菜、特にピーマン栽培にかけては先駆者でありその品質が消費者から普遍的評価されているという意地と誇りがある。
毎年8月にはピーマン感謝祭を欠かさず開き、2011年の今年は第66回目を迎えている。
第66回モッタ・ピーマン感謝祭のポスター
旬の野菜が一番おいしいのは自明の理。一般家庭では保存食以外にどのようにしてこの野菜を食べているのか知りたくなるのは当然。私が住んでいる地域でいちばん普及している、ピーマンに詰め物した料理方法をご紹介します。
ピーマンの下ごしらえ。
オーブンなどで丸ごと焼き、丁寧に皮をむき四つに開く。内側の白い部分と種をとる。
詰め物の準備。
オイル漬けのツナ、塩漬けアンチョビ、ケイパーなどを細かく切ったあと、よく混ぜあわせ味を調える。準備しておいたピーマン1片にファルシーをのせ、巻き寿司の要領でしっかり巻き込む。
食材全体が良く馴染むようにするには、一晩冷蔵庫で休ませる。こうするとよりおいしくなるようだ。
それぞれの家庭ではよりおいしくなる工夫がされ母から娘へと引き継がれてきているのを聞くことがある。それは、ファルシーのなかにワインビネガーで浸したパンを加えてポイントをつけたり、または硬ゆで卵の卵黄だけを裏ごしして入れたりするなどだ。
この時期、お招きいただくと大きなお皿に沢山並べられ、好きなだけ食べるようにと勧められる定番の前菜でもある。
ピーマンのオーブン焼き アンチョビ風味ツナのファルシー
野沢 寛夫